国民金融公庫の建物に入って受付を済ませた。
少し長椅子で待たされた。
座るのに躊躇した。だから立って待っていた。
ほぼ時間通りに案内の人が来た。
若くて可愛い女の人だった。俺が市場で働いて頃はやってたELTの持田マキみたいなコだった。クールだった。
ガラスのついたてがあるだけの面談室だった。
椅子に座るか躊躇して立っていると「お座り下さい。」といわれた。
反対側の椅子にそのコが座った。俺も座った。
どおやらこのコが俺の面接をするんだと言う事にその時気が付いた。
童貞をなくした時のことを思い出した。高校生の時、千葉の栄町のトルコで部屋まで案内してくれるだけと思っていたオカーさんとSEXするとは部屋に入ってから、その人が服を脱ぐまで想像も出来なかった。
今回は若くてキレーでラッキーだな。俺バカ。
面接でそのコは用意していた自分の書類を広げ始めた。全て俺が提出した書類だ。
「すみません、これ追加の経歴書です。」さっきコピーをとった奴だ。それは隅に置かれた。そして最後までその位置から動く事はなかった。
そのコは俺が以前提出した書類を最初から読み出した。どおやら聞きたいことはこの書類に虚偽があるかどうかだのチェックだった。
俺が聞かれることはどうでもいいことばかりだった。
「~は間違いないですね?」
「ハイ!書いてあるとおりです。」
10分経っても20分経っても30分経っても40分経ってもそれが続いた。
その時俺は気づいてしまった。このコは断り要員だ。断るためにいる面接官だ。若すぎる。
俺は特に話す隙もなくどうでもいい質問に答えていた。
俺の気持ちはどんどん冷めていった。落ち込んでいった。何度も試みたが流れは断ち切れなかった。
そのコはなんでも調べていた。ウチのホームページをほとんどプリントアウトしていた。
メニュー。お知らせ。掲示板。日記。
書類が終わると今度はそっちのチェックになった。
45分経った。50分経った。1時間の面接時間で。俺は怒っていた。
胸にこみ上げる熱いものを抑えるのに必死だった。
「どおして、そこまでして店を拡張しようと思うのですか?」はじめてきた質問だった。
俺は怒っていた。
「自分は4年前高円寺で店を出しました。町柄なのか夢をもった若いもんがたくさんウチに飲みに来てくれました。どうしようもなく孤独な奴、どうしようもなくどうしようもない奴。最初はみんなツパッテて生意気でどうしようもない奴です。俺が心を開くと生意気也にも心を通わす事が出来ました。でもこの時期になるとみんな田舎に帰っていきます。生意気でどうしようもない奴だったけど、帰る頃になると苦労しているせいか、みんないい奴になってます。人の気持ちのわかるいい人間に。」
「この時期になると俺のところには田舎に帰ると挨拶に来るコ達がいます。今年になって4人います。すがすがしい顔をしたコばかりではないです。みんな口では田舎に帰ってからの夢を語るが本心ではないのが俺には判ります。だから俺は察していつもこう言ってます。”バーボンハウスは若い力を必要としてる。田舎がイヤになったらいつでも戻って来いや。その頃には俺も少しはマシになっているから。”いつもそんなことを言ってます。そう言うと喜んでもらえるからです。」
「俺はただ自分が酒の席で言い続けた事を実現したいだけなんです。生意気だった奴も帰る頃にはトコトン苦労した分イイ奴になっているんです。俺はソイツらと仕事がしたいんです。」
俺は必死だった。面接時間は5分過ぎていた。面接のコが涙ぐんでいた。俺から目をそらした。
ヤバイと思って話をやめた。面接官が泣くなんて、やっぱりこのコは断り要員だ。
俺の気持ちは急速に冷めていった。
「私どもは金融機関なので審査のうえ融資が出来るかどうかを判断します。もしこの事業計画がうまくいかなくて失敗になったとき島田さんはどのようにしてお金をお返しになるつもりですか?」声が上ずっていた。
その時のために保証人つけろって言ったんだろう!
ダメだ絶対にNGワードだ。ぐうの音も出なかった。
「島田さんは自己資金ゼロです。今まで貯金できなかったんですか?」言いずらそうだ。
「ど素人で始めました。自分が成長する事を望めば望むほどお金は出て行きました。財産は自分の成長です。もっと成長したくてここに来ました。」言っててつらかった。
「もう少しお金を貯めてから、お越しになってはいかがですか?年々売り上げは上がっているようですし。」 つらそうだ。
「もっと成長したくて、言った事を実現したくてここに来てます。ここに来るまでが大変でした。どうなんですか?」
「現時点では難しいとしかお答えできません、、、、これから審査に廻します詳しい結果はそのあとという事で。」
「審査に時間をかけるのは止めててください。俺はなにがなんでも、、、なんとしてでも絶対に絶対にやります。待たされた挙げ句ダメだったってのは勘弁してください。ダメならダメではやく連絡を下さい。俺はやりますので。その邪魔はしないで下さい。」けんか腰だった。
喫茶店に行った。
美容師さんが来た。
事のいきさつを話すとこう答えた。
「五分五分!」
「結果はゼロかイチだよ。ダメかも知れないけど心は通った。」
「若い娘が面接官なんてはじめて聞いたよ。」
「最初は嬉しかったけどね。」
店に戻った。開ける準備をした。
ぐうの音も出なかった質問を思い出していた。
「失敗した時どうやって返すのですか?」その方法を思い付いたので電話した。
「面接官の~さんお願いします。」
「~は今外出中です。電話があったことは伝えておきます。」
だった。
あきらめて店を開ける準備をした。