4月 悪霊と呼んでいる

俺の使命。
開店時間から閉店時間までこの店にいる。お客がいなくても。
誰もいない飲み屋に立ち続ける。
それはきつい事で無人島に一人でいることより孤独を感じることになる。
全ての準備をする誰が来ても恥ずかしくない店を作り上げる。それを使命と思い。
それでもお客は来ない。
そんな時は今までしてきた自分のミスを責める。その結果が今味わってるこの気分だと。
一通り反省する。
よる1時をすぎて2時を回る。雨が降ってくる。もお誰も来ないだろうが店は開け続ける。
なぜならこの店は駅から遠い。ここまで来て店は閉まっている。それは悲劇だ。
たち続ける、使命感だ。
そして自分の頭の悪さ、他に最善の策が思いつかない。

お客が来た。
こんな時現れるお客は天使か悪魔だ。
でも今の俺にはなんでも天使に見える。きつい時間を過ごしすぎた。今まで積んだ経験と勘はどこかに消えてなくなってる。
それでいいと思っている。それが初心だ。

 「いらっしゃいませ!」
どっから見ても完全体の酔っ払いだ。
中通り最後の飲み屋バーボンハウス、引き受けるのも俺の仕事だ。
「ヒマそーだねー。この店。客いないじゃん。」
悪魔だ。いや! 初心!!この人は悪霊に取り付かれているだけだ。
「その帽子へんだよ。カウボーイのつもり?」
「マスター無口だねー。面白くないよ。だから客がいないんだよ。」
悪霊に取りつかれた人は頭がいい。俺が言われてつらいことばかりを瞬時に見つけてしゃべり続ける。

「あの間抜けな街頭放送この店なんでしょ。恥ずかしくない?あんなことまでしてお客欲しいの?」
 「お騒がせしてます。」

不思議なもので悪霊に取りつかれたお客はこういう時にしか来ない。
俺の弱気を感じ取って店に入ってくる。
思えば店を始めた頃の遅い時間のお客さんはほとんどがそうだった。悪霊に取り付かれると人は自分より弱い人間を探し出す嗅覚が働く。
右も左もわからなかった俺はこれが客商売と思い下手に下手に対応した。
そしてほとんどのお客が完全体以上のスーパーモンスターに変身して暴れまわった。

「マスター!俺のこと嫌いでしょう!」
 「いや、そんなことないですよ。」
この人は悪霊に取りつかれているだけだ。
前の店で面白くなかったんだろう。
ここまで完全体になって俺のところに来た。
俺の仕事だ。
昔と違うのが俺は経験を積んだ。これ以上モンスター化させない。
こんな時俺は牧師になる。モデルは映画の「エクソシスト」に出てくる牧師だ。
毅然とした態度で、理を説き、義を語り、仁をもって接する。
「マスター!俺のこと嫌いだろう!!だってフレンドリーじゃないもん。」
 「そんなことないですよ。本当に。」

そろそろしゃべることにする。しゃべる事はまっとうなことだ誰にでもわかる。
破壊力のある一言を。
「いや嫌いだね!フレンドリーじゃないね。」
 「好きも嫌いもないですよ。俺たち初対面じゃないですか。」
「でもヤッパリ嫌いでしょ?だってフレンドリーじゃないもん。」
 「だって俺達初対面じゃないですか。」
「そこをフレンドリーにするのが飲み屋の仕事だろ。」
 「それは嘘じゃないですか。」

まとめよう。
 「別に好きも嫌いもない。なぜなら初対面だからだ。フレンドリーに見えないのは嘘でフレンドリーに接しても今後いい付き合いができないからだ。そして俺がこういう人間だって事だ。」 「立場は違えど俺たちは同じ人間だ。感情がある。ムカつく事を立て続けに言われたら頭にくる。顔には出してないつもりだが出てたらゴメンな。好きも嫌いもない、俺達は初対面で俺は店をやっている。」

「ちょっと今日は飲みすぎた。お勘定で。」
彼の悪霊は去った。
今ここにいるのは俺と同い年くらいのオッサンだ。同じ世代を生きて、同じようなアイドルに夢中になり、同じようなロックバンドにあこがれた。
 「これよかったら、初めて来てくれた人にプレゼントしているライターです。何かの記念になれば。」
「あ、ありがとう。」
 「ありがとうございます!またよろしくお願いします。おやすみなさい。」 

また一人になった。
天使がくるかもしれないので店を開け続ける。たち続ける。他にいい方法を知らないから。
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  by kouenji-bourbon | 2008-02-22 05:13

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